九死に一生<その1>桃香は去年の病気以外にも何度か死にかけたことがあります。その度に助かっているので今、こうしてここに居るのですが思い出してみると 色んな事があったなぁ・・・という感じです。 あれは確か、桃香が14歳か15歳の頃。 痴呆初期が始まったくらいの事でした。 まだまだ普通に元気でちょっと若い頃と変わった事といえば朝晩けたたましく 騒いでご飯の催促がすごかった事とたまに粗相をしてしまう事くらいでした。 なので普通に数時間のお留守番などはさせていて丸一日誰かがついていなくちゃ いけないという程ではありませんでした。 ただ、長時間の留守番は出来るだけ避けるようにはしていたのですが もともと我が家は母が専業主婦で家にいてくれているので丸々一日 誰もいなくなる事はほとんどありません。 しかしその日はたまたま父親が出張、私と姉は会社、母親は旅行で、朝7時くらいから 私が帰宅する夜7時位まで桃香は1人でお留守番となってしまいました。 私は何日も前からその日を気にしていて、桃香に 「大丈夫、残業しないでダッシュで帰ってくるから良い子にしてるんだよ!」と 言い聞かせていました。 その頃は特に旋回運動なども始まっていなかったので隙間に入って動けなくなる とか転んで起きあがれないんじゃないかなどの心配は全くなかったのですが トイレの心配とご飯の催促で数時間ずっと鳴き叫び続けていることが心配でした。 その日は仕事をしていても気が気じゃなくて終業時間のチャイムと共に 会社を飛び出し駅までダッシュ、電車の中ではイライラ。最寄の駅からバス停まで ダッシュ、バスの中でイライラ、最寄のバス停から自宅まで猛ダッシュで 「ももかぁ!!!!待っててねぇ!!」と叫びつつ(心の中で・・・)帰りました。 案の定自宅から50mくらい離れたところからもう桃香の「ウギャーー!!!ギャンギャンギャン!」 とてつもない大きな鳴き声が聞こえてきました。 鍵を急いで開け、玄関は排泄物が散らばり惨劇のようになっていましたが そんなのは予測済み、そんなことより、桃ちゃん、お待たせ~!!の気分で 抱きしめました。 桃香は抱きしめられても私をふりほどき、台所の方に向かってギャンギャン!! 「私よりご飯なのね・・・くすん」と思いつつもいつもより長く待たせてしまって いるので早くご飯をあげなくちゃと、いつものドッグフード(カリカリタイプ)では なく、以前、病院でもらった缶詰をあげることにしました。 桃香はその当時もお年寄りの年齢になっていた為、カリカリはお湯でふやかして あげていたため、お湯を沸かす時間とふやかす時間を待たせるのは可哀想と 思ったからです。 缶詰を開けている時も玄関前で大騒ぎしているので私は食器と缶詰とスプーンを持って 桃香のところに行きました。 そして桃香の目の前で「今あげるからねぇ」とスプーンを使って缶詰から食器に ご飯をうつしたのです。 桃香はもう我慢できず、入れている側から食器に食らいついてきました。 「ちょっと待ってよぉ!入れづらい!!」と思った瞬間、私の横で桃香が バッターンと後ろにひっくり返ったのです。 足が滑ったにしてはおかしすぎました。のけぞるように真後ろにバターン! と倒れたのですから・・・ 「え???」一瞬何が起こったかわからなかったのですが桃香は 「クガー」と変な音を出して四肢がピーン延びた姿勢でとパッタリ動きが 止まっていました。暴れてもいず目は見開いて体がちょっとエビ反ってて 細かに体がケイレンしていたのです。そしてオシッコもいっぱい出ていました。 私の脳裏には何故か「毒???」と浮かびました。 よくTVドラマなどで見る毒殺のシーンに似ている光景でした。 「そんなわけないじゃん!」と思ったのと同時に、「窒息だ!」と思いました。 桃香の上あごと下あごをもって、ガバ!!っと開きのぞいたら喉にピッタリと ご飯の塊がハマっていました。ためらうことなく口に手をいれ引っ張りだし 「ももーーーー!!!!」叫びながら背中とお腹をガー―――!とさすって ゆすっていました。そうしたら「グー」と空気を吸い込む音がしたと同時に ゲホゲホガホガホいって桃香がバタバタ暴れだしたのです。 そして抱き起こすとものすごく荒い呼吸で全身でハァハァいって、一点を 見つめていました。桃香自身もショックだったのでしょうか、呼吸が整って きてからもしばらくポケーっとしていました。 私は缶詰のご飯をスプーンで崩しながら食器に入れていたつもりだったのですが ボコっと塊で食器に入ってしまったようです。 それをそのままものすごい勢いで桃香ががっついて飲みこんでしまったのでしょう。 100%私のせいでした・・・ 引っ張り出したご飯の塊は4センチ角くらいもありました。 ポケーっとしている桃香を抱きしめながら私もしばらく放心状態でいると 10分くらいたった頃でしょうか、桃香がおもむろに動き出しご飯の食器に 向かっていって入っていたご飯をパクパクパクと食べだしたのです。 「もも…あんたって子は…」その姿を見た瞬間ガーーと涙が溢れ出し そこからはもう止まらず誰もいないのを良い事に私はオイオイと号泣してしまいました。 安心したのと怖かったのと、私のせいで桃香が死にかけたっていうので 頭は大混乱で泣きまくってしまいました。 食器にはほんの少ししかご飯が入っていなかったのですぐに食べ終わった桃香は 泣いている私にはお構いなしで「ワンワンワン!!(ご飯足りないよぉ!)」 と催促してきました。またその姿に余計泣けてきて泣きながらご飯を足して あげました。 そして桃香は満腹になり、すっかり満足しきったようすで自分のベッドに入って 寝ちゃいました。 私は気持ちが全然落ち着かず、母と姉に今はもう大丈夫だけど…との前振りつきで 一部始終を事細かに書いたメールを送りました。私が号泣した事を除いて・・・ すると間もなくして姉から電話がかかってきて開口一番「あんた大丈夫なの?」 と言われました。桃香に何かがあったら私が潰れちゃうって事をうちの家族は 知っています。だから桃香より私の事を心配してくれた姉の言葉でした。 でも私は泣いた事などおくびにも出さず全然平気!と何でもない風を 装ってしまいました。 そしてしばらくして母からも「大変だったねぇ。大丈夫?」と電話が。 メールで知らせて家族の声を聞いてやっと落ちついた私でした。 それにしてもホントに桃香には申し訳ないことをしてしまったと思っています。 ちゃんとご飯を崩して食器に入れてからあげればよかったのに目の前で入れたから あんなことになったのです。 桃ちゃんごめんね。私にはそれしかありませんでした。 今思い出しても身の凍る出来事です。 でも桃ちゃん、あの時死なないでくれてありがとう!! ----------------------------------------------- |